後立山(長野/富山) 白馬岳(2932.3m) 2023年5月20日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 1:32 猿倉駐車場−−1:59 長走沢−−2:14 林道終点−−2:26 雪渓に乗る(標高1490m)−−2:35 白馬尻小屋(建物は無い)−−4:04 アイゼン装着(標高2160m)−−4:43 避難小屋−−5:29 丸山−−5:41 離山−−5:49 登山道−−6:07 白馬山荘−−6:27 白馬岳 7:00−−7:08 白馬山荘−−7:15 祖母谷方面分岐−−7:55 旭岳 7:57−−8:26 荷物デポ地(休憩) 8:40−−8:41 祖母谷方面分岐−−8:43 村営頂上宿舎−−8:52 避難小屋(アイゼン装着) 8:56−−9:06 アイゼンを脱ぐ(標高2120m) 9:09−−9:29 白馬尻小屋−−9:32 夏道−−9:39 林道終点−−9:49 長走沢−−10:10 猿倉駐車場

場所長野県北安曇郡白馬村/富山県下新川郡朝日町
年月日2023年5月20日 日帰り
天候快晴
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場猿倉に駐車場あり
登山道の有無あり
籔の有無無し
危険個所の有無大雪渓最上部〜小雪渓間が急雪面で滑落注意。特に雪が締まった早朝はピッケル必携。雪が適度に緩んだ時間帯なら下りでも安心して通過できる
山頂の展望いずれの山頂も晴れれば大展望
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コメント今年初の白馬岳へ。葱平付近の夏道はまだ完全に雪の下で大雪渓最上〜小雪渓間は谷を直登したがかなりの斜度で滑落注意。往路は残雪を利用して丸山へ直登し離山に立ち寄ってから白馬岳山頂へ。稜線上の登山道にはほぼ雪無し。その後久しぶりに旭岳へ登頂。村営頂上宿舎からの下りでは多数の登山者とすれ違った。大雪渓最下部ではニリンソウ、シラネアオイ、オオサクラソウが咲いていた。まだ雪渓が氷化していないので下りの大半はアイゼンを外してグリセード気味に下れたので頂上宿舎から登山口まで1時間半ほどで下れた(花を探さなければもっと速かっただろう)


大雪渓最上部の急斜面を登る登山者。雪が締まった時間は危険だが雪が適度に緩むとそれほどでもなかった


夜中1時半に出発。車は10台程度 長走沢はデブリに覆われて流れは見えない
まさかの先行者の足跡 林道終点
追上沢には橋が架かっていた 標高1490m付近で雪渓に乗る
先行者のライトの光が見えた 東の空が徐々に明るくなる
傾斜が増す標高2160m付近でアイゼン装着 冬ルートは大雪渓上端を直登。ここから小雪渓までが最大斜度
小雪渓でトラバース気味に右へ 傾斜が緩むと避難小屋の屋根が見える
避難小屋から見た東の空。ちょうど日の出だった 避難小屋。ドアが雪に埋もれて使用不能
避難小屋から上部のルート。夏道の大半が残雪の下 避難小屋横で流れが出ていた
日の出直後の越後駒ヶ岳 苗場山付近。尾瀬や奥日光の山々は見えなかった
先行者の姿がやっと見えた ルートを離れて丸山へ向かう
丸山南側で県境稜線へ出る 丸山山頂
丸山から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
次は離山に向かう 鞍部に設置された野生動物撮影用カメラ
鞍部に設置された気象観測装置 離山への登り。下部はザレ、上部は岩
離山山頂 離山から見た白馬岳
離山から見た村営頂上宿舎 離山から見た丸山
往路を戻り鞍部へと下る 気象観測装置とカメラ
雄雷鳥。全体が黒っぽいのが特徴 雌雷鳥。全体が茶色っぽい
白馬岳を見上げる 祖母谷方面分岐。この標柱は昨年夏は無かったと思う
祖母谷方面分岐から見た離山 白馬山荘。今年は既に営業開始している
山荘前を東へ 稜線直上の道
村営頂上宿舎を見下ろす 木の階段には霜が降りていた
山荘裏手はまだ雪に埋もれる 白馬岳山頂を見上げる。山頂に人の姿あり
縦走路に合流 軽装の男性が下っていった。小屋泊まりの人だろう
白馬大雪渓を見下ろす 見える範囲の雪渓には一人だけ
白馬岳山頂 大雪渓を見下ろす
白馬岳から見た南側の展望(クリックで拡大)
白馬岳から見た北側の展望(クリックで拡大)
白馬岳から見た常念山脈〜槍穂
白馬岳から見た槍穂
白馬岳から見た裏銀座方面
白馬岳から見た立山、剱岳
白馬岳から見た毛勝三山
白馬岳から見た猪頭山〜瘤杉山の稜線。瘤杉山は見えていない
白馬岳から見た後立山北端部
白馬岳から見た八ヶ岳 白馬岳から見た南アルプス北部
白馬岳から見た白山 白馬岳から見た猿倉駐車場
帰りがけのおまけで旭岳に向かう 下りの途中でザックをデポ
デポ地から20mくらいで雪に乗る これが旭岳
おそらく2日前と思われる足跡あり ここで夏道に乗り換える
夏道はかなり急 山頂南端肩に到着。東側は残雪
稜線直上と西は無雪。夏道はこちらにある 旭岳山頂。いつの間にか山頂標識があった
旭岳から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
旭岳から見た不帰岳、百貫山、名剣山。残雪がかなり少ない
旭岳から下り始める デポしたアイゼンを回収
県境稜線の祖母谷分岐 雪の上を歩く雷鳥
鞍部から登り返し 県境稜線。やっと登りはおしまい
稜線東直下から雪が始まる 水源の雪渓を下る
村営頂上宿舎。まだ人は入っていないようだ 宿舎前の100mくらいが雪が無い区間
標高2700m付近で水が出ていた 標高2680m付近
標高2650m付近 避難小屋前
この男性は幕営装備で25kgとのこと! 私では担げない重さ 小雪渓の下り。ここから傾斜が急になる
大雪渓/小雪渓境界付近を登る登山者 大雪渓上端の急斜面を下る。雪が適度に緩んで恐怖感は無かった
大雪渓上端の急斜面を登る登山者 標高2120m付近。傾斜が緩む
傾斜が緩んでアイゼンを脱ぐ 標高2120m付近から下を見る
標高2020m付近 まだ落ちてきたばかりらしい
標高1850m付近 標高1740m付近
標高1740m付近から下を見る 標高1610m付近。左岸の傾斜が緩むとお花畑の始まり
標高1610m付近から下流を見る 左岸の高台がお花畑になっている
ニリンソウ サンカヨウ
ニリンソウの群落が多数見られた オオサクラソウ
エンレイソウ シラネアオイは咲き始め
エゾエンゴサク 追上沢の橋
ショウジョウバカマ 長走沢のみ林道に雪が被る
タチツボスミレか?
花弁の模様の細かさと距が白いのでオオタチツボスミレ
ニリンソウ
キクザキイチゲ エンレイソウ
長走沢 林道脇でもニリンソウの群落があちこちにあった
鑓温泉分岐 オオタチツボスミレの群落
猿倉駐車場到着。夏山シーズンと違って半分程度の入り


 今週末は久しぶりに土日とも好天の予報。どこに行くか悩んだが雪がより多く残っているはずの大雪渓経由白馬岳とした。前回この時期に登ったのは中背山のはずなので20年近く前のことであるが、傾斜が急な葱平付近も夏道は出ていなかったので怖い思いをして急な雪面を登った記憶がある。あれから経験をそれなりに積んだので少しはマシになっただろうか。

 前日の金曜日は雨が降る悪天だった影響もあり、金曜夜の猿倉駐車場に止まった車は1台だけ。ここを利用した回数は数10回は確実にあるが、ここまで少なかった記憶はない。まあ、まだ夏山シーズン前だしなぁ。林道入口近くに駐車して酒を飲んで仮眠。仕事の疲れもあったせいか久しぶりに爆睡できた。

 当日は日中は気温が上がる予報であり、まだ涼しい時間帯に下山すべくいつものように夜中1時前に起床して飯を食って1時半に出発。そろそろ登山口の気温が上がってきて飯を温めなくても食うことができるようになった。真っ暗闇の中を大雪渓を登るのは落石が見えないので危険であるが、この時期はまだ杓子尾根に雪がかなり残ってガレを覆っているはずで、夏場よりも落石は少ないと予想した。落石よりも大雪渓終端付近の急斜面でのルート取りが心配で、ここを先が見えない真っ暗な時間帯に通過する自信が無かったため標高2200mの通過が午前4時過ぎになるような設定だ。今の時期は晴れていれば4時には明るくなり始めて周囲の様子が見えるはずである。

 残雪期の装備はマジなピッケルに10本爪アイゼン。急雪面を考慮すれば当然の装備である。冬装備ではないが日差しが強いのは確実なので麦わら帽子も持つ。もちろん日焼け止めも。暑さ対策で扇と濡れタオルもプラスする。

 中背山の時は林道にも残雪があったように記憶しているが、今回は林道上に雪があったのは長走沢だけであった。大量のデブリに覆われて流れは雪の下なので橋が無くても問題なしであった。

 残雪期のこんな時刻に大雪渓を歩く人間が他にいるとは思っていなかったが、石の上に濡れた靴底パターンが残ったものを発見し先行者がいることが判明。しかし林道から全く光が見えないので10分以上の差があるのは間違いなかろう。長い距離の先が見通せる大雪渓に出れば光が見えるであろう。

 林道終点から登山道に入るが最初は雪が無い。徐々に雪が見られるようになり、標高1500m手前で登山道は完全に雪の下に隠れて雪渓に乗る。気温が高めで雪の表面は凍っていないのでアイゼンは不要であり、しばらくはアイゼンを装着せずに登ることにする。アイゼンの重さは馬鹿にならず、使わずに済むのなら体力的にはその方が有利である。ここに至ってもまだ先行者の光は見えなかった。

 雪渓を登り始めて傾斜が緩んで平坦地に出ると白馬尻だが建物は無しでコンクリートの土台が出ているだけ。帰宅後にネットで調べたら白馬尻小屋は今年も営業しないそうだ。昨年はトイレだけ建てたが今年はどうだろうか。ここへきてやっと先行者のライトの光が見えたが遠く、時間的には30分程度の差がありそうだ。さて、追い付くことができるだろうか。

 白馬大雪渓は幅が広くこの時期はクラックが無いのでどこでも歩くことが可能。ルートはあまり気にする必要はないが、右寄りを歩くと枝沢に引き込まれる可能性があるので杓子尾根寄りを上がっていく。最近は気温が高かったようで雪の上にはトレースが残っている箇所もあったが、今の時間帯は足が沈むほど雪が緩んでいないので先行者のトレースは不明である。まあ、これだけ広ければ同じルートを歩く確率はかなり低いだろうけど。さすがに5月中旬だけあって雪面はまだスプーンカット化していないのでスキー向きで、これは下りでは歩くというより靴を滑らせて滑り降りることが可能であろう。これができると夏道の下りより劇的に短時間で下ることができる。

 雪の上には落石が見られるが夏場よりは格段に少ないし、杓子尾根からの落石の音は皆無だった。念のために大雪渓上部では杓子尾根から離れた側を登るようにした。この頃にはまだライトが必要な明るさであるが周囲の地形が見えるようになり、ルート判断が安心してできるようになっていた。雪渓で樹林が無く開けた地形という点もあってか、意外にも午前3時半にはこんな状況になっていた。

 大雪渓上端付近で傾斜が出てきたのでアイゼン装着してザックのピッケルを手に持つ。葱平の急斜面はもしかしたら夏道が出ているのではと期待していたが、島状に岩が出た箇所はあるものの道そのものは雪の下であり、一番傾斜が緩いのは沢の中央部であった。夏場は水が流れる場所であるが今は一面の残雪に覆われて流れは雪の下。前日かその前の物と思われるとトレースが上へと延びているが、真新しいアイゼンの足跡もあり先行者のものに間違いない。しかし妙に歩幅が乱れているなぁと不思議に思ったが、一人ではなく二人の足跡と解釈して納得がいった。まさか先行者が複数いたとは。距離が離れているので光の点が2つに分離して見えなかったようだ。その先行者は既に急斜面区間を抜けて見えなくなっていた。

 大雪渓末端〜小雪渓にかけてが最も傾斜が急な雪面であるが、取付いてみると意外とそれほどではなく普通に登ることができた。ただし今の時間帯は雪が締まってコケて滑れば止めることはできそうになく、下りでは前を向いて下れるか微妙な場面である。夏場なら小雪渓末端に当たる箇所でトレースは右へトラバース気味に上がっていくのでそれに従う。ここまで来るとやや傾斜が緩むがまだ滑落に気が抜けない地帯である。半分雪に埋もれた避難小屋まで上がれば傾斜が緩んで安全地帯であった。この下にあるはずの夏場に見える巨大な岩壁は完全に雪に埋もれているようで全く見当たらず、雪は深いところで10m以上あるのは間違いないだろう。

 日の出を迎えた東の空は背の高い雲海に覆われて志賀高原の山で雲海から突き出していたのは岩菅山と横手山のみで、その右手には四阿山と浅間山。残念ながら奥日光の山々は見えずに苗場山の左手の中ノ岳、越後駒ヶ岳が精いっぱいだった。

 避難小屋はドアの前も積雪があるので入ることはできない。ドアを掘り起こした形跡が無いのでこの時期の利用者は皆無だろう。小屋の横には意外にもこの時期でも流れがあり水が得られる状況だった。今回は水場は全て雪の下だと想定して水を担いできたが不要だった。なお、避難小屋から村営頂上宿舎の間では数か所で流れが出ている場所があった。ここまで来ると傾斜が緩んで先の様子が見えるようになり、先行の2人の姿が確認できた。大雪渓よりも間隔が少し詰まったようだ。

 一般的にはこの先は雪に埋もれた夏道と同じ浅い谷底を上がっていくが、今回は離山に立ち寄るためにルートを離れてまずは丸山を目指すことに。この時期は東の県境稜線まであちこちで雪が繋がった状態なので直接上がることが可能。離山は村営頂上宿舎の裏山のような岩山で登山道は無く、岩が崩れやすく夏場は小屋やテント場に石を落としてしまう可能性があるので登るのは憚られるが、小屋の営業前である今の時期は周囲は無人であり迷惑はかからない。

 既に日の出を迎えて東斜面には日が当たって雪が緩み始めて急な雪渓に足跡が付く程度に雪が沈むようになる。ここまでは全く雪が沈まなかったので楽に歩けたが、僅かに潜る程度でも足が確実に重くなる。日が高くなって明るくなり雪が緩んだ時間帯に大雪渓を登るのが一般登山者の行動だが、私のような早朝(夜間)登山では雪質の点で体力消耗が抑えられることが初めて分かった。涼しい時間に登れるだけではないメリットがあったとは。

 急雪面を登り終えると丸山の南側で県境稜線に出る。ここには足跡があり杓子岳方面へと縦走したハイカーのものと思われた。しかし稜線上の残雪は僅かでありすぐに夏道に出て久々の丸山山頂に到着。

 丸山はその名の通り山頂部が平坦で丸く足元の地面で近場の展望が遮られるが、植生はハイマツなので視界を遮るものは無く遠くの山々は良く見えていた。離山は逆光になって細部が良く見えない。

 今は雪は無いが県境稜線から離山へと下る箇所で雪があるのでアイゼンを履いたまま丸山を北へと下り、小鞍部で残雪に乗り移って離山との鞍部へと下る。鞍部には気象観測機器と野生動物撮影用の無人カメラが設置されてあった。地面からの高さはそれほどでもないので雪が消えてから設置されたものだろう。この先は雪が無い岩場なのでアイゼンを脱いでザックへ。

 最初はザレた斜面で足元が流れやすいが少し登ると岩場へ。しかし妙に滑る岩でコケでも付いているのかと思ったほどだが、後になって岩に霜が降りていたと判明する。滑りやすいので注意して行動した。

 離山山頂部は南北に微小ピークを構成していて北側の岩が最高峰だった。立木が無いので目印は無し。眼下は村営頂上宿舎だが窓は全て雪囲いされたままでまだ人が入っていないようだった。テント場はもう雪が消えていた。

 滑りやすい往路を慎重に戻って県境稜線との鞍部に出ると雷鳥のつがいが登場。雄雷鳥が雌雷鳥を追いかけていた。雷鳥は雄と雌で色が微妙に異なり黒っぽいのが雄である。カエルのような声で鳴いているのも雄。この時期は縄張り宣言で良く鳴き声が聞こえるし、飛んでいる姿もよく見かける。今回は大雪渓を登っている時、旭岳に登っている時にも鳴き声が聞こえた。

 県境稜線に戻って無雪の夏道で白馬岳山頂へ向かう。小屋は営業しているのに登山道に人の姿は見えないのは、駐車場の台数からして宿泊者が相当少なかったからだろう。もちろんこの時刻では日帰り登山者は先行していた2人以外はいないはずだ。時期が早いが登山道脇に花が咲いていないか探しながら歩いたが全く見られず。稜線で最も早いのはツクモグサと思われ6月上旬くらいからかな。

 白馬山荘に到着すると東西の建物間にまだ雪が残っていたがルート上は雪切されていた。ここでいつものように縦走路を離れて小屋の東側の稜線上の登山道へ。こちらは雪は全く残っていなかったが木の階段は真っ白に霜が降りていたのはびっくり。それほど気温が低いようには感じられなかった。木の階段を上がり切った高台からは白馬岳山頂南肩に立つ人の姿が見えたが先行者の一人だろう。

 縦走路に合流すると南の肩に立っていた人とは別の軽装の人が下ってきた。何も背負っていなかったのでもう一人の先行者ではなく小屋泊まりの人と思われた。そして約半年ぶりに白馬岳山頂に到着すると南の肩に立っていた人物が休憩中であった。

 今日は空気の透明度がイマイチで尾瀬、奥日光の山々は見えず、南アルプスの北部の山々は見えるが南部の山々は霞んで見えなかった。しかし近場と言える北アルプスの山々は雲がかからずしっかりと見えている。ここからでは立山が邪魔をして薬師岳は見えなかった。剱岳の右側には加賀白山。山頂で30分ほど休憩し、まだ時間があるので久々に旭岳に立ち寄ることにして下り始めた。

 旭岳へは祖母谷方面の分岐で西に下るが、そこまでの間で登りの登山者と2名すれ違った。私と同じく日帰り登山者のはずだが、大雪渓では後方に光が全く見えなかったことを考えると私より速いペースで登ってきたに違いない。

 祖母谷方面分岐を僅かに下った場所で荷物をデポして空身で旭岳に向かう。中腹まで雪が付いているので念のためにアイゼンを装着してピッケルを持ったが、結果的には雪が緩んでどちらも不要だった。

 すぐに残雪に乗るがこれまでと違って足首位まで踏み抜く雪質であり、この時期の雪としては不思議だったが鞍部付近から雪が締まって歩きやすくなった。登りにかかると雪の上には古い足跡が残っていた。さすがに白馬岳の登りでかなり体力を使ったので更なる登りはきつい。それに日が高くなり雪が徐々に緩んだことも体力の消耗に繋がる。雪渓末端より手前で夏道が登場し、この雪質では地面の方が歩きやすいので夏道に乗り移る。雷鳥の声がしてハイマツの中から飛び立ったがあっという間の出来事で撮影する時間は無かった。

 少しだけアイゼンのまま夏道を歩いたが、県境稜線から見た感じではこれより上方は雪があってもアイゼンは不要だろうと判断してアイゼンをデポ。夏道はかなりの傾斜で砂利が積もっていて少し沈むので雪の上を歩くように疲れる。夏道は低いハイマツの中をジグザグを切って上がっていく。

 再び雪が現れる頃には傾斜が緩んで山頂の一角、南の肩に到着。南北に長い山頂部の東側はまだ残雪があるが、尾根直上から西斜面には雪は全くない。夏道はその雪が無いエリアに付いているのでそれを辿る。この尾根でもまだ花は全く見られなかった。

 尾根の南側に巨大な岩が聳える箇所が旭岳山頂で、以前は無かった山頂標識が立っていた。東隣の白馬岳山頂にはまだ人の姿は無かった。清水岳から祖母谷へ落ちる尾根には不帰岳、百貫山、名剣山と続くが不帰岳はまだ残雪を纏っているが百貫山、名剣山は雪は少なく藪が出てしまっている。百貫山、名剣山は未踏なのでいつか挑戦したい。南北に長い山頂部で真の山頂から南北方向は自分自身の地面が邪魔で近場の山が見えないので、北にずれた場所と南の肩でも写真撮影しておく。

 往路できつかった急な登りも帰りの下りでは非常に楽で、デポしたアイゼンを回収して雪の上に乗り快速で下る。下方から雷鳥の声がしたので雪原をみると動く影あり。かなり距離が離れていてデジカメの最大ズームで何とか撮影できた。

 鞍部からの登り返しは足にきついが距離は短い。腹が減ったのでデポしたザックの地点で飯休憩。パンを齧って水を飲む。天候は快晴で日差しが強く、白馬岳山頂で顔に日焼け止めを塗っているが、さらなる日焼け防止と暑さ除けのため麦わら帽子を被った。

 休憩を終えて出発。すぐに県境稜線に出ると残雪が登場するが、雪が緩んできているのでアイゼンを付けないまま下れると判断してアイゼンは付けなかった。最初は思ったよりも雪が緩んでおらず傾斜もあって登山靴の踵をけり込んで下ったが、村営頂上宿舎前で傾斜が緩むと雪が消える。夏場に水源となる雪渓末端はまだ先まで雪が続いているのでいつもの水場はまだ使えないが、数10m先で雪が切れて流れが出ているので水を得ることは可能だった。

 夏道が出ている区間は100mほどで再び雪に乗るが、傾斜が緩いのでまだアイゼンは付ける必要はない。最初は人の姿は無かったが下っていくと徐々にすれ違うようになる。避難小屋より下部は傾斜がきつくなるのでアイゼン装着。ここですれ違った大ザックの壮年男性は幕営装備で25kgと言っていたが、私の体力ではこの重さは背負えそうにない。これで夏道ではなく雪が緩んだ急雪面を登ってきたのだから大したものだ。

 小雪渓下部のトラバース区間から急雪面に突入するが、帰りの時間は雪が適度に緩んで足が潜るので固く雪が締まった往路より格段に安全に下ることができ、バックではなく前を向いたまま下ることができた。安全性の面ではいいことだが足が沈むのだから登りでは体力を搾り取られるだろう。雪が緩むと下りでは膝への衝撃が雪に吸収されるので夏道より疲労が抑えられて格段に楽である。この付近からすれ違う登山者の数が多くなった。

 傾斜が緩んだ地点からアイゼンを外してグリセード気味に下っていく。この時期は夏場のようにまだ雪が氷に近い状態ではなく雪のままであり、表面もスプーンカット化していないので非常に歩きやすいしグリセードしやすい。落石は多いもののまだスキー可能な状況であり、少数ながらスキーヤーも見かけた。

 傾斜が緩んで谷の幅が広がると左岸の一段高くなった無雪の台地状のエリアで花が咲いている可能性が出てくるので、左岸縁にルートを変えて時々足を止めて見上げながら下っていく。今回の山行は今年初のシラネアオイを見ることも目的の一つだったので花を探すのにも気合が入る。案の定、草の緑の中に花が咲きだしていて、ニリンソウ、シラネアオイ、オオサクラソウ、サンカヨウが見られた。シラネアオイはまだ咲き始めたばかりのようで開きかけの花が多かったがニリンソウは既に大群落を構成した場所もあった。オオサクラソウは花の形状でサクラソウの仲間であることは一目瞭然だが細かな種類までは判別できず、帰宅後にネットで調べて判明した。葉の形状が決め手っとなった。

 建物が無く雪かきもされていない白馬尻を通過した先で夏道に乗る。県境稜線からここまで1時間もかからなかった記録的な速さで、これも今の時期の雪質のおかげだ。夏道脇にも花があるはずなので注意しながら下っていくとショウジョウバカマ、サンカヨウ、エンレイソウ、エゾエンゴサクを見ることができた。

 林道に出てからも春の花を探しながらのんびりと歩く。最も多く見られたのはニリンソウであちこちで群落を作っていた。

 次に多く見られたのはスミレ。いつものように現場では細かな種類は判別できなかったが、色々な角度から写真撮影して帰宅後に調べやすくしておいた。スミレは種類が多くて見た目の違いはほとんど分からない程度なので判別は非常に難しいが、今回はネットでしつこく調べて種類判別のために見るべき場所を習得した。一つは花や葉が地面から直接出ているか(無茎)、それとも茎から出ているか(有茎)。スミレはこれで大きく2つに分けられる。次に見るべきは花弁の毛。横にある花弁に毛があるかないかは大きな手掛かり。それと同じくらい重要なのが距の色と大きさ。距とは花の後ろに突き出した袋状の突起で、この違いは種類判別の大きな手掛かりとなる。葉の形状も手掛かりになるが、大雑把にはどの種も同じような形が多いし同じ種でも個体差が大きいので近縁種の判別にはあまり参考にならない。

 上記の視点で今回撮影したスミレの確認をした結果、有茎、無毛、白い距の特徴からオオタチツボスミレと判明。長野で多く見られそうなタチツボスミレの距は花と同じ薄紫なので、今回見た種とは違う。

 この他に見かけた花はキクザキイチゲ(一輪だけ)、エンレイソウ(多数)、エゾエンゴサクなどであった。

 猿倉駐車場に到着すると満車ではなく7割程度の入りであった。天気がいいとはいえ残雪期なのでこのくらいだろう。これから出発する登山者の姿も見られ、上がってくる車もまだあった。駐車場から白馬岳山頂が見えているが、朝にはかかっていなかった雲海になっていそうな低い雲が増えつつあった。今の時間帯は曇って日差しが無い方が熱さが和らぐので、特に登りではメリットがあるだろう。

 

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